THE STARRY RIFT

ヴィジュアル系バンドや女性・男性アイドルについて気ままに駄弁るブログです。

amber gris 解散の前に

さて。いつの間にやらゴールデンウィークを迎え、ついに5月に入りました。今年の5月はamber grisを見送る特別な月になります。

このブログを始めて、いつ彼らのことを書こうかと悩んでいました。最後のライブを見た後でまとめるのがいいのかなあとも考えていたのですが、その前に、私が彼らと彼らの作り出したものをどう捉えているのかを書いておきたいなと思ったので、この記事を書かせて頂きます。

 

amber grisが解散すると発表された時に

解散発表に寄せられた彼らの言葉があまりにも詩的なものだったので、私は少し困惑しました。具体的な解散理由が書かれていなかったので。

 

「メンバーからのコメント」: amber gris news blog


けれども、ファンの方々のブログやSNSを辿るうちに、そうか、彼らは最後までamber grisという世界を全うしようとしているのか、ヴィジュアル系バンドであり続けようとしているのかと納得しました。見せるべきでないところは見せないという選択、世界観を貫くという美意識。そういえば、彼らはヴィジュアル系シーンで活動することに誇りを持っていたと、一気に腑に落ちたのでした。それと同時に私はまだまだ思慮も想像力も足りないのだなと反省しています。

それでもやっぱり、寂しいものは寂しいのですけれども。

 

変化と終幕

amber grisは素敵なバンドなのですよ。

彼らのバンドには古めかしい図書館のような雰囲気があります。どっしりとした木枠の棚に繊細な装丁の本、がっちりとした装丁の本など、様々な本を並べられている絵が浮かびます。amber grisには物語性を帯びた楽曲が多く、彼らの楽曲を聴いていると素敵な本の頁を捲って物語を読んでいるような気持ちになるのです。

初期の楽曲は森の中で眠る少年が見る夢を描いたようなものが多い印象でしたが、次第に都市へ出た青年の見る夢のような曲になっていきました。それは彼らの進化であり、私はその変遷を楽しく聞いていました。濃淡・清濁の表現の幅が広がって、ライブの緩急の仕掛け具合も楽しくて心地よく感じました。

音楽的には、初期は懐古主義的なロックが多かったイメージがあります。古くからこのシーンを応援している人にとっては「これこれこれ!」と唸るような曲が多いのではないでしょうか。初期ラルクの白系なライン、あるいは昔の名古屋系風な美意識を伴う濃厚な暗いロックを継承しているように思います*1

さらに、打ち込みの音を使わず、各人の楽器の音だけで勝負しようという意識の強さがかっこいいですのよ。アルバム「pomander」に収録の「ファラウェイ、ファラウェイ。」なんかが象徴的なのではないでしょうか。昨今では打ち込みの音はバンドマンにも身近なものになっているようで、普通だとこういうキャッチ―な曲には打ち込みで飾りの音を入れそうなところだと思うのです。でも、この曲は歌とギターとベースとドラムの音だけで表現され、それだけでみごとにキャッチーでありつつも牧歌的な雰囲気を併せ持つ素敵な曲になっているのです。

後期はそういった路線の曲もありつつ、次第に新しい音楽性にチャレンジしていった印象があります。「the Oath」という曲は珍しい構成というか独特なリズムの取り方なのだと思いますが、それでも堂々たる王道感があるのはamber grisならではだと感じます。

さらに、amber grisは音楽だけではなく、そのヴィジュアルからも物語性が漂っています。映像も画像も、背景や小物まで凝っていて、彼ら自身、絵本の中にいる人達みたいな印象です。

でもきっと曲の方向性やイメージは年を経るごとに変わっていくのだろうなと漠然とは思っていました。彼らも年を取るし、容貌も考え方も好きなものも変わっていくのでしょうから。そういう変化も楽しみだなと思う反面、もしかしたらいつか終わりがあるのかもしれないとは思っていたのです。でも、それがこんなに急に来るとは。びっくりしたというより、拍子抜けしてしまったと言った方が正しいのかもしれません。

去年夏にamber grisの黒服限定ライブがありました。ドレスコードが黒い服ということで、観客もバンドマンも黒服、目黒の鹿鳴館は真っ黒でした。ライブ終了後、「夏の黒服限定ライブは熱いね、次は季節を考えよう」というようなことをtwitterかブログかでメンバーの殊さんが書かれていたと思います。それもあって、解散なんて本当にまだずっと先のことだろうと私は思い込んでいたので、今回の解散発表は「あー……」と。

別に「騙された!」みたいな気持ちはないです。「そっか……いろいろあるもんね。でもやっぱり寂しいや」みたいな気持ちなのです。


メンバーについて

個人的に好きなメンバーは下手ギターのwayneさんです。寡黙で、独特の不思議な雰囲気を纏った人で、ちょっとがっちりした大きい妖精さんだと私は思っています。

ライブ中、あまり表情を変えないし、というか、マイクの置き方が独特で、下手の舞台袖を向きながらコーラスしているような状態なのでフロアからは横顔しか見えない時間も多いです。でも、ギターを弾くのが大好きなこと、曲を大切に思っていること、バンドにかける熱はその横顔から十二分に伝わってくるし、たまに観客にアピールするように正面を向いてギターを弾いてくれたり、あろうことか、観客に向かってにっこり笑ったりすることもごく稀にあって、そんなwayneさんが大好きなのです。

などと書いていて本当に申し訳ないのですが、やはり自分の中で特別視せざるを得ないのはボーカルの手鞠さんだったりもします。

手鞠さんは、もうただただ「素敵な人」だと仰ぎ見ています。私の中で「素敵な人」と言えば手鞠さん。手鞠さん以外に「素敵な人」という言葉を使いたくないくらい素敵な人です。男性に憧れる気持ちではなくて、全てのジャンルを超越して尊敬する人に対するものとしての言葉です。手鞠さん自身、中性的な柔らかい雰囲気の方ですしね。

手鞠さんは卑近な話題もユーモアたっぷりに話す人なのですが、一度ステージで歌い始めると手鞠さんの周りには「清浄なる空気」みたいなものが流れているように見えます。暗い闇の濃い歌を歌っている時も、光の差す歌を歌っている時も、現世と隔てた一つ深い世界にいるように見えるのです。

そして、歌声は芯の強さと暖かさに満ちていて、聴く人を暖かく包み込んでくれるような声なのです。少し癖のある声質だとは思うのですが、包容力のある声で非常に心地よいのですよ。

MCで手鞠さんの「よろしくどうぞ」の言い方が私は好きなのです*2。たおやかな言い方ですよね。もっと「よろしくどうぞ」が聞きたかったんだけどなあ。

もちろん他のメンバーも大好きですよ!

上手ギターとして「kanameであること」への強い意識と矜持がかっこいいkanameさん。wayneさんとの不思議なバランスをとるギターの競演は聞きごたえがあります。

「可愛い」よりも「美しい」女形であり続ける殊さん。優しいベースから激しいベースまで弾きこなす姿が素敵です。

おそらくこの方以外にamber grisに合うドラムを叩くことができる人はいないであろうラミさん。いつもフロアを楽しませようとしてくれる姿勢が嬉しいです。

どのメンバーもamber grisの世界を大切にしているのであろうことは、様々な媒体から伝わってきます。なので、5月は悔いのないステージを見せてくれることを祈るばかりです。是非、素晴らしいライブを見せて頂きたいです。

 

amber gris 個人的おすすめ楽曲10選

まるで物語を読むような感覚で楽しめるamber grisの曲。個人的に大好きな10曲を選んでみました。大好きな曲ばかりで、絞るのが大変でした。順位は付けられませんので順序はランダムです。

☆ feel me(アルバム「pomander」収録)

amber grisで初めてMVが付いた作品。そして、私が初めて聴いたamber grisの曲でもあります。というのは、初めて買ったamber grisのCDがこの曲を収録したアルバムのpomander通常版(feel meが1曲目)なので。

繊細なギターのアルペジオに絡まるもう一つのギター。そんな風に穏やかに始まりながら、次第にドラマチックに切なく盛り上がっていくスローな曲です。おそらくは戦争と病苦に翻弄される女性の姿を歌った曲で、聞いていると映画的な絵が浮かびます。

グリニッジの針の上で(シングル「bright or blind」収録)

これは何よりラミさんの爽快なドラムが聴きどころ。前々から思っていましたが、ラミさんのドラムのフレーズがamber grisの楽曲には絶妙にマッチしすぎて、もうラミさん以外にamber grisのドラムをできる人はいないと思っていたのが確信に変わりました。

吹奏楽のように爽やかなドラムと切なげなギターの旋律が、なぜだか心地よく絡まっている不思議な曲。歌詞の雨や夏草、警笛などの情景描写も音にはまっています。

☆ Sunny day's seeker(ミニアルバム「少女のクオレ」収録)

amber grisらしいお菓子のように甘い雰囲気のあるロック。サビはかなり疾走感があるロックをしているですが、それでも優しい甘みを感じるのです。Aメロとかのギターの入れ方が甘く優しい感じにさせるのかな。その分、ドラムやベースが細かく動いている印象でしょうか。

歌詞は少し気怠く憂鬱な朝の描写に始まり、美しい自然の情景描写、切ない感情も表現されています。個人的には「庭で採れたクレソンを~」という歌詞の印象が強く、レストラン等クレソンを使ったメニューを見るとついつい頼んでしまうようになってしまいました(笑)

☆ Ugly crawler(シングル「decadence」収録)

実は最初は苦手な曲でした。でも、ある時ふと「これは歌劇を意識した曲なのでは?」と思ったら、途端に好きな曲になりました。

歌もの曲ではあるのですが、演劇的な要素を強く感じます。ゆっくりとしたテンポでじっくりと聴かせる曲であり、手鞠さんの歌も演奏も感情過多な印象。古風と言っていいのか、退廃的な音と歌詞でじっとりと纏わりつくような闇の雰囲気のある曲です。

☆ 海風と雨と最後の手紙(ミニアルバム「チャイルド・フォレスト」収録)

この曲を聴くと、心が震えます。

海辺の街を舞台にした悲しいさよならのお話です。イントロの繊細なギターのフレーズを聴いた瞬間に、もうこの物語の世界へトリップするようになってしまいました。穏やかな雰囲気でありながらも、隠しきれない悲しみを湛えた曲です。

勢いを押さえているパートと、サビのドラマチックさとの対比がいいですね。手鞠さんもかなり意識して歌い分けている様子。そして、殊さんのベースの音がとても優しくて、ベースってこんなに素敵な楽器なんだなと改めて思わされた曲でもあります。

☆ over flow girl's sick(ミニアルバム「チャイルド・フォレスト」収録)

これは説明不要の名曲だと思います。

繊細な少女を表現する方法が、歌詞でも音でも飛びぬけて素晴らしいのですよ。曲自体も色々な展開が入っていて聴きごたえがあります。サビは切なさと疾走感が見事に調和して、胸がキュッと痛くなるようです。

グランギニョル(アルバム「AROUND CHILDREN」収録)

激しめのロックはH u m m i n g b a r d ’ sや美醜などカッコいい曲がたくさんあります。それらはどちらかというと、今風と言うよりは懐古主義的な楽曲が多いように感じます。ギランギニョルはそこから少し捻ったというか、やや今時ヴィジュアル系風というか……に見せかけつつ、やはり懐古主義が匂うのですよね。そんなところもカッコいいのです。

凶悪な雰囲気の楽器隊と、ゴシックでスキャンダラスで狂気な歌詞がベストマッチしています。

☆ This cloudy(シングル「This cloudy」収録)

朗々と歌い上げる部分、優しく穏やかに歌う部分、疾走感に任せて走る部分と、展開に富んでいます。

どうしても譲れない大切なものを守ろうとしている人の歌なのだと思います。大切なものを守りたい優しい気持ちが穏やかに表現されている一方で、そのために生じるジレンマや苛立ちがキリキリと軋むように伝わってきます。

そして、この曲はMVも素敵なので、是非見てみてください。

www.youtube.com

 

☆ from mouth(ミニアルバム「Across the blow」収録)

こういう退廃的・憂鬱感がありながらも、力強く優しい力を感じる楽曲はamber grisならではだろうと思います。初期の頃から比べるとかなり洗練された印象の音楽なのですが、どうしようもないほどのamber gris感を感じる曲です。

www.youtube.com

 

☆ wishstar and sunlight and darkness.(アルバム「pomander」収録)

最後にあげる曲はこれしかないと思います。少年らしいしなやかさや瑞々しさ、弱さ、それでも必死に大人になろうとする強さを感じられる楽曲です。ライブではフロアとの一体感が美しい曲ですよね。今回の解散とこの歌詞を対比すると切なくなってしまいます……。

 

以上、好きな曲ばかりの中からかなり無理矢理選曲しました。気になった方は是非是非、音源を手に取って聞いてもらいたいです。

そして、気に入った方はどうかラストライブの赤坂ブリッツへ足を運んでみてください。きっと素敵な物語を見せてくれると思いますので。

私も寂しいような楽しみのような気持ちでその日を待っていようと思います。

*1:名古屋系という言葉については意味が拡散しつつあり、私も正確な定義を理解できているのかは怪しいですが……。

*2:主にライブのMCなどでCDとかライブの告知の時に使う言葉