どうも、フミヅキです。バンギャル=ヴィジュアル系バンドのファンだったはずが、V6も好きになり、特に森田剛くんの天才肌ぶりにハマり、今も応援し続けている人です。
先日、森田剛くんと間宮祥太朗さんW主演の舞台「台風23号」を見てきましたので、その感想を記したいと思います。このところTwitter(X)メインでブログは放置していたのですが、ネタバレありの感想を書こうと思うので久々にこちらの場所を利用します。

まずはザっとあらすじに触れると、戦後最大級ともいわれる台風23号が近付こうとしている田舎町を舞台に(アマゾンの配送とかあるので現代)、まるでその台風に刺激されたかのように、この街の不穏さや人々の抱え込むストレスや不安が表出していく……というストーリーです。物語の背景で犬殺しの事件が起きていることは語られるものの何か大事件が起こるわけではなく、登場人物達の何気ない会話がだんだんと積み重なっていっての物語後半~終盤に行われる人々の心情の吐露がメインディッシュなのだと思います。
人間、まっすぐ素直に生きていたくても、どうしたってそんな生き方はできなくて、その齟齬のせいで心の中に溜まっていく毒素のような気持ちとか、いい人ではありたいけどそんな風にできない自分に対する呪詛みたいな気持ちとか、そういうものが表現された舞台だったのかなと感じました。
なんか、登場人物みんな気持ち悪い部分を抱えているんですよ。たとえば、木村多江さん演じる智子さんは、実父(演:佐藤B作さん)に抑圧されてた人生を送ってきたのかなと見受けられるんですけど、そんな実父が老いて弱くなった時に実父を労わりたい気持ちもありつつ消しきれぬ憎悪を抱えているんです。介護疲れもあるのか、かなりメンヘラ女性になってしまっていて、イケメンのヘルパーと不倫するわ(ただ、智子さんのメンヘラ悪化の要因は彼にもある)、ヒステリックに喚くわで、見た目は清楚な雰囲気なのにかなりエキセントリックなキャラ造形となっています。他人にお惣菜をもらってタッパーを返す時、洗いもせずに汚いままのタッパーを返すという演出が、彼女の「なんだかおかしいな」って部分を表していてすごいと思いました。
智子さんの夫(演:藤井隆さん)も夫で、パッと見はそつのない公務員という感じなんですが、妻の不倫相手であるヘルパーに対して「別れないでね」と言うのです。ヘルパーと出会う前の智子さんは暗く、精神が塞ぎこんで家事ができない期間もあるくらいで、それがヘルパーさんと関係を持つことでお化粧してお洒落して綺麗になって。だから別れないでね、と。一面的には不倫に寛容な夫なのですが、たぶんヘルパーさんから見たこの夫は、「メンタルが悪化していく妻と向き合えずに罪悪感を抱えていた日々から解放され、これからも妻の面倒なメンタル面を不倫相手に丸投げしようとしている男」なんじゃないのかなと思ったりもしました。
ただ、智子さんの不倫相手であるヘルパー(演:間宮祥太朗さん)もやばいんですよ。智子さんのメンヘラぶりに辟易して別れたい気持ちでいたのに、そんなことは知らない夫から「別れないでね」と言われて精神的に追い詰められていくわけです。でも、そもそも不倫しなければこんな面倒なことには……とツッコむのはたぶん無粋なんですよね。人当たりも良くて忍耐力もありそうなヘルパーさんなのですが、智子さん以上にメンタルがやばい状態だったのではないでしょうか。不倫に逃げたうえ、犬殺しの犯人であることも示唆されています。
ただ、本当に犬殺しの犯人なのかな?と個人的には疑問に思っています。智子さんの実父が、彼の優しくない一面を見てしまった時に「お前が犬殺しの犯人だな!」と決めつけ、ヘルパーさんは最初は否定していたのに後半は認めるようなセリフを言っていました。でも、この時のヘルパーさんはかなり精神的に追い詰められていて、自暴自棄になっていただけなんじゃないのかな?という気もしました。(智子さんの実父は物語序盤で財布泥棒の冤罪をヘルパーさんにかけたりしてましたし)
でも、この舞台において真犯人かどうかはあまり重要ではなく、彼がとてつもなく追い詰められて精神のパンク状態を吐露したという状況の方が重要だったのだと思います。間宮さんの独白も迫真の演技でした。
智子さんの実父もなぁ……。おそらく妻子をぞんざいに扱ってきて(妻は既に死亡している)、認知症気味になってしまった実父に対して智子さんが「恨んでいることだけは忘れないでね」みたいに言うですが実父は明確なリアクションはせず……。彼が健全と忘却のはざまにいる状態なのは確かですが、智子さんからすると「現実の罪と罰から忘却の世界に逃げようとしている」ように見えるのです。実父が本当に呆けているのか、わざと呆けたふりをして逃げているのかは曖昧ですが、彼が物語終盤で死を望むのは、私には「逃げ」に見えました。智子さん的には「過去を反省してほしい、過去にやらかした分だけ罰として今傷ついてほしい」と思っているのでしょうが、実父は智子さんのそんな気持ちを本当の意味で分かっているのか微妙に見えました。わざと見ないようにして傷つかないようにして、死を望むのも、忘却と同じように智子さんをはじめとする現実の傷みたいなものからの逃避なんじゃないのかなと思ったりもしました。
スナックの母子(母を演じるのは秋山菜津子さん、子を演じるのは伊原六花さん)はお互い素直になれない感じで、こちらも拗れた関係です。母親から病気になったと連絡が来たので娘が慌てて帰ってみると母は元気で、娘は噓をつかれて東京から呼び戻されたと憤慨し、当初は母親も嘘であることを否定しませんでした。なのに母親の新恋人のセリフから本当に病気(おそらく乳癌)だということがわかる展開は、素直になれない大人達のすれ違い描写がうますぎじゃん!と思いました。
こんな風にすごく人間関係やら個人の心の中やらが拗れまくっている登場人物たちの中で、本作の演出でもある赤堀雅秋さん演じる星野純がものすごく別世界の人という感じで面白かったです。星野純はスナックのママである菊池雅美の新恋人で物語序盤で雅美が「真面目だけが取り柄のタクシー運転手」と語っていたのですが(たしか)、登場してみれば全然違うんですよ……! なんか……バンドマン崩れのおじさん?おじーさん?、真面目に働いたことないんじゃないの?という雰囲気、いかにもなダメンズじゃん……みたいな。しかもメンタルが強すぎる。おそらく人にどう思われるかをまったく気にしていなくて、他人のこともまったく気にかけていなくて、完璧なゴーイングマイウェイ。絶対に近づいたら面倒な人なんですけど、人間関係と精神状態がごちゃごちゃしている本作においては、一人だけ遥か高みの精神状態にあるためか、見ていると非常に爽快・痛快な感じで、どんよりしがちな舞台に星野純が出てくると一服の清涼剤になるという不思議な人物でした。赤堀さんの演じ方も、話の通じない感じ……でもこういう感じの人いる!ってリアル感がすごかったです。
あとは伊原六花さんの演じ方が思いのほか好きでした。最年少の役で、他の登場人物のちょっとおかしい感じに対して「あの~……」「それって○○じゃないですか……?」みたいに若干引きつつ丁寧語で話しかけるんです。それがすごくリアルな若者感があってうまいなーと思いました。
さてさて、そんな一見どこにでもいるのに実は拗れて癖強なキャラクター達の中で、森田剛くん演じる配達員がどんな役かというと――なんか、浮いているんですよね。
他の登場人物はいずれかのキャラと関係性を築いていて、その関係性に紐づく事柄で人間関係やら精神やらが拗れているのに対して、配達員は舞台上の誰とも関係がないのです。でも、確実に彼も心が拗れていて、どちらかというと「個人で決めたルール」みたいなものに絡めとられて拗れている印象でした。公共のルールとか職務上のルールとかを下敷きに作り上げた「自分ルール」みたいなものがあって、自分も他人もそれを冒すことは許さない、みたいな拘りです。このルールゆえに登場人物の中で浮いている感じがあるし、溶け込めない感じ?
配達員は町中を配達してまわるという背景としての役割もあり、この田舎町には馴染んだ存在ではあるのです。でも、したり顔で「配達、すなわち人と人とを結びつける人間関係のメタファーなのです!」なんて語るのは違う感じ。街に溶け込んだ異物という印象ですかね???
他の登場人物が他者との関係性に拘泥しているのに対して、配達員は自分の中のルールに拘泥している感じが対比的なのかなと考えたりもしました。配達員にも家族がいて子供を大事にしているのですが、作中、家族とは電話での対話のみで(しかも妻子の声は観客には聞こえない)登場人物とは別フィールドの人という印象もあります。
星野純もゴーイングマイウェイだし、自分の考え第一主義みたいな感じで浮いているのですが、それとも在り様が違う感じがします。星野純がアッパーなテンションなのに対して、剛くんの佇まいのせいか配達員はダウナーな印象で、自分ルールに潰されてしまうのではという不穏な雰囲気があります。
配達員が途中怪我をしていたのは私は犬殺しの伏線かと思ったのですが、これも彼の奇妙な拘り(怪我をしても尚仕事を中断してはならぬ)だったのですかね???
最後、探していた荷物を届けられたのは大団円?な感じがして好きでした。
以上が登場人物に関する雑感です。以下は私の超個人的な内面を含めた感想です。読み飛ばしてもらっても大丈夫です……。
私、舞台序盤を見ていた時、結構いたたまれなかったんですよね。登場人物が自分の考えとか拘りを一生懸命に話しているのに、観客でそれを面白がって笑っている人がいて、なんだかそれが辛かったんです。
いや、わかるんですよ。あれが滑稽で面白いということは。でも、私としては序盤の会話は「個人の拘りで譲れない部分を話しているんだなー」と捉えていて、それをコメディチックなパートと捉えて笑っている人がいることに「え~!ほかの人には面白い部分なのかー!そうかなのか……」みたいな、驚きというかショックというか身につまされるというか、なんか頭が混乱してました。でも、自分も相手の意図しないところで笑ったりしているだろうから非難するのは違うだろうし……みたいな。
特に剛くん演じる配達員が「10円を借りてしまった、絶対返す!」ことにめちゃくちゃこだわるシーンは、私はあまり笑えなくて、私にもそういうところあるんだよな~と身につまされる感じだったんですよ。
上でも書きましたけど、配達員は職務上のルールを下敷きに自分ルールみたいのがあって、それにすごく拘っています。私も公共のルールを下敷きに自分ルールみたいのがあって。
たとえば、「狭い道の赤信号で自動車列に追い付いても車を抜かさず車列の後ろで待つ(狭い道で自動車が自転車(私)を再度追い越すのって超面倒くさいはず)」「歩道を自転車で走る場合、隙間があれば歩行者を追い越すが、隙間がなければ歩行者が気付いて譲ってくれない限りは歩行者の後ろを歩きのペースで漕いで追い越さない(歩道は歩行者優先だから)」「電車の降り口は広く開ける。降りる人が全員途切れてから乗り込む」「電車からホームに降りてすぐ階段だった場合、すでに階段を昇降する人の列ができていたら途中から入り込まずに最後尾に並ぶ*1」みたいなのが自分ルールで、それを遵守したい気持ちが私は強いです。
でも現実はこの辺はルーズにいった方が効率的ですよね。わかっているんですけど、なんか個人の変な拘りが拘りで雁字搦め薔薇薔薇なわけです。(一部のバンギャルにしか通じない書き方)
たとえば、電車を降りる人を待つ時、最後の人が出る瞬間(とか降りる人が少なくなった瞬間)に車内に入る人が今は多いと思うんです。自分は別に損な生き方でもいいやと思って生きているだけのつもりでしたが、肩ひじ張って「私だけでも待ってやる!」みたいな意地っ張りな部分があるのも否定できないです。しびれをきらして私の次に並んでいる人が私を抜かして車内に入っていったりもするわけで、そうするとちょっとムッとする感じもありつつ、私は邪魔な人間なのかな、自分の拘りって人から見るとバカみたいなのかな、みたいな落ち込む部分もあり。
だから、配達員の拘り(本人は真剣)が笑われるのって、私はちょっと辛い部分がありました。作・演出の赤堀さんはどういうつもりだったのか気になります。あれはコメディー的に捉えてほしい部分だったのか、普通の人間の側面として捉えてほしかったのか。
でも難しいですね。そんな拘りの強い配達員でもどこかルーズな面があったように、私も別の面ではすごくルーズだし、面倒くさがりです。それに私は星野純を楽しく見ていましたが、そう見ることができない観客の方もいたかもしれません。
なんか、いろいろな側面を考え始めると止まらないです。
結局、人間だもの。いろいろあるよね。って結論なんですかね。
あと最後の演出! 舞台をご覧になった皆様はあれをどのように解釈しましたか?
私は音が鳴った最初、中止になった花火大会の花火が暴発したのかな?と思ったのですが、智子さんの夫のセリフに「爆撃だ」みたいなのがあったり(記憶がちょっと曖昧ですが、こんなニュアンスのセリフありましたよね?)、そういえば舞台の途中でキノコ雲!みたいなセリフがあったし(でも、その時には台風の強雨による現象だよ、みたいに否定されたりもしていた)、一方で皆の怒りの現れだ(だったっけ?ちょっと記憶が薄い……汗)みたいなセリフもあったり。いろいろな解釈ができそうだなと思いました。
①【とんでも解釈】のほほんとしている田舎町には情報統制のせいで伝わってこないが、実は戦争が始まっている。その戦争の火蓋と、登場人物たちの心情の吐露の激しさとを重ね合わせたラスト
②比喩表現。実際は花火も爆撃もなくて、みんなの心情の吐露の激しさがまるで花火とか爆撃のようだ……みたいなラスト
③花火の暴発。みんなでそれを見ながら、花火の暴発もみんなの心情の吐露も激しいね~としんみり(?)するラスト
みたいな行くかのパターンの解釈をしてみましたが、どうなんでしょう。
そんな風に「台風23号」は様々に思いを巡らせることになった面白い舞台でした。やっぱり舞台って普通と違いますね。ドラマとか映画はリアルなものを描き出すのが重要なのかなと感じるのですが、舞台って抽象的な表現も許されて、そこを観客の想像力で補完していくのが面白い気がします。たとえばセットが部分的にしかなくてもその奥行きを観客が想像して広がっていく感じ。人物の造形も難解なことが多くて、いろいろ想像して思い巡らせるのがすごく楽しいです。森田剛くんのファンをしているとこういう機会が与えられるのですごく刺激的で、ファンをしていて良かったな!と強く思うのです。
*1:横入りと思われるのが嫌というのはありつつ、これは単に私が鈍臭いだけかも。タイミング見て列に侵入することができないのです。長縄で中に入っていくのとかも超苦手だったし(笑)