THE STARRY RIFT

ヴィジュアル系バンドや女性・男性アイドルについて気ままに駄弁るブログです。

映画「前科者」感想(ネタバレ有り)

どうも。バンギャルヴィジュアル系バンドのファン)であったはずが、いつの間にやらV6のファンになり、特に自分が森田剛くんのファンであることを自覚しバンギャル兼業となったフミヅキです。長らくブログを放置していてすみません! 

今回は森田剛くんの出演した前科者の感想です。すごく良い映画でした。個人的に感じたことを書いていきますが、【ネタバレ有り】で書きますのでご注意願います。

 

実際に見るまでは不安でした…私の嫌いなストーリー構成ではないかと…

事前に公開されていたあらすじによると、剛くん演じる工藤誠は過去に殺人罪を犯して今は保護観察中。保護司である阿川(有村架純さん)に見守られながら更生の道を進んでいたが、ある連続殺傷事件が発生するとともに工藤は失踪してしまう……。

鑑賞前の私の予想としては、工藤が失踪しなければならない何らかの理由ができて、そのせいで冤罪なのに疑いをかけられてしまうようなストーリー展開なのかなと予想していました。そういうのは私が苦手なお話かも……楽しめないかも……とちょっと不安に思っていました。

 

完全に個人的な好き嫌いの話で申し訳ないのですが、私は冤罪もの(騙されてとか不運とかで犯罪者に仕立てあげられてしまう悲劇、無罪なのに人をかばって敢えて罪を被るような話とか)が結構苦手なのです。人が無実なのに疑われる展開にストレスを感じてしまいまして……。むしろ剛くんの前作、ヒメアノ~ルみたいに完全にシリアルキラーなお話の方が安心して見ることができるくらいです。

その根元はアンパンマンと思われます。私が幼い頃、バイキンマンが各話ゲストキャラに「アンパンマンは悪い奴なのだ!」と吹き込んでアンパンマンと対立させる話をいくつか見て、「アンパンマンのお話って嫌い!」と感じてしまったんです。最終的にはゲストキャラもアンパンマンは本当は良い人だと理解し、協力してバイキンマンを撃退するんですけど、ゲストキャラが騙されてアンパンマンを疑っている時に感じるストレスに耐えられなかったんですよ。

今回の前科者も、冤罪といえば冤罪です。失踪した工藤誠は殺傷事件自体は実行していないのに容疑者にされてしまうので。(ただ、捜査を撹乱したり犯罪者を助けるような行為をした、という意味では工藤誠自身にも罪はあります)

苦手なストーリー展開ではありました。しかし、そこまでストレスは感じなかったと思います。それは、冤罪に至る理由を丁寧に描写しているから納得するし、そもそも冤罪そのものが作品のテーマではないからだと思います。

この作品のテーマは、社会の枠組み(世間一般で普通と呼ばれるようなもの)から零れてしまい、犯罪者とならざるを得なかった人たちがいること、それでもそこから更生することができるはずという希望だと感じます。ちょっとサスペンスドラマちっくな展開はあくまで添え物で、人が犯罪を犯すというのはどういうことなのか、更生するとは何なのかといったテーマの方に主眼を向けているから、私の苦手意識は刺激されずに済んだのだと思います。

 

個人的に、どうしても剛くんの前作ヒメアノ~ルと対比して考えてしまう

保護司の阿川は犯罪を犯した人も更生できること、更生後、その人にとっての普通というものが始まるのだと信じています。罪を繰り返そうとする工藤誠に、阿川が「人間でいられなくなりますよ!」というセリフを言う場面があるのですが(人間に戻れなくなりますよ、だっなかな?あやふやですみません)、私はその時、ヒメアノ~ルの森田を思い出してしまいました。

工藤誠は不幸な生い立ちでしたが、人間として立ち直るのに寄り添ってくれる阿川という存在がいたのに対し、そのような存在と出会えず、世界からこぼれおちてしまったのがヒメアノ~ルの森田なのだなと思いました。ただ衝動に導かれるまま、行き当たりばったりに犯罪行為を繰り返してしまう、人間でないものになってしまっただなと。彼だって元々はとても普通の学生だっなのに。

そして、前科者の今回の真犯人はヒメアノ~ルの森田に近い存在なのだと感じました。

 

それはあり得るのか?というリアリティラインの難しさ

この映画は前科者と保護司、彼らと社会との関わり、その暖かさと困難さをリアルに描いていると感じました。普通の生活の中で彼らがどう生きていくのかという表現がリアルでした。しかし、それゆえドラマチックな展開や演出が私は逆に気になってしまいました。

たとえば、工藤の事件担当となった刑事がたまたま阿川の過去のトラウマに関わる人物で、そんな偶然ある?みたいにちょっと気になっちゃったんですよね……。あー、映画だからこういう主人公側の内面・過去の物語を成立させるために立たされるキャラね~みたいな……。

あと、不良警官の尋問に(この警官がかなり悪くて嫌な奴とはいえ)拷問的な手法をとっているシーンとか。今時、こんなマズイこと刑事はやらないのでは……?

でも、この辺りはそもそも阿川みたいな保護司にリアリティあるのかという、そもそも論になってしまうかもなので、フィクションという媒体に対しては意味がない指摘かもですね(笑)

私はWOWOWドラマ版「前科者」を未視聴で映画だけ見たのでそう感じた部分もあるかもしれません。ドラマのリアリティラインを知っていればまた違った印象だったかもです。

 

●の死に対して感じたこと

ここはマジでネタバレなので注意してください。

殺傷事件の真犯人が最終的に自殺を選びました。彼は恵まれない生い立ちで、そのせいで精神状態もボロボロで、自分がこうなった原因に対する殺意にしか依存できない状態でした。

先程、阿川の「人間でいられなくなりますよ」というセリフをあげましたが、その意味で言えば彼はもう戻れない位置に来てしまったゆえに自殺を選ばざるを得なかったということなのかもしれません。ただ、更生がテーマの本作において、彼に自殺をさせたのは正しい脚本だったのか、少し疑問はあります。彼のような存在も更生の意識を持つ可能性を見せる展開にも出来たのではないかと。

彼の自殺後、工藤誠は彼の意思を継いで復讐を遂げようとし、それを阿川が阻止して工藤は更生の道に戻ってくるという脚本となっていました。それは正しい脚本であると思います。

真犯人の彼の自殺は衝撃的で美しい幕切れではあったけれど、同時に、美しいストーリー展開のための材料にされた部分もあって、正しいって何なのかなって少し考えてしまった部分でもありました。

 

ちょい役な前科者たちのキャラクターの良さ

阿川の関わる前科者は工藤誠だけではありません。工藤以外の前科者たちは出番こそ少ないものの、憎たらしくもチャーミングですごく良かったです。

元詐欺師のおっさんは、当初、阿川の父親を騙って十万円単位の飲み代を阿川にひっ被せようとしていて(保護観察中なのに何やってんの!)、私は「なにコイツ!最悪!」と思っていました。でも、阿川はそれを元詐欺師のおっさんにきちんと精算させるように調整したんですよ。これによって、前科者と向き合うことの困難さと、阿川が前科者に甘いだけじゃなく毅然と対峙することもできる保護司であることを示すことに成功しているのです。で、こんなことをしておきながら、物語が進んだ後、阿川が落ち込んでいる時には元詐欺師のおっさんはさりげなく(?)阿川を励ましていて、その優しさに私は涙腺が潤みかけてしまいました……ズルいぜ、元詐欺師のおっさん!

あと、今は更生して便利屋をやっている女性は元ヤン的な言動してるギャルっぽい人なんですけど、阿川のことを慕っていて、弱い部分もある阿川のことをさりげなくフォローしていて。「惚れんじゃねぇぞ!」って言っていたけど、惚れてまうやろ~(涙)と思いました。

この方々の脚本上のキャラクターとしての立ち方も良いし、俳優さんの演技も良いし、最高~!と感じました。

 

俳優陣の素晴らしさ

悪い俳優がいなかった……全員が全員よかったです。素晴らしい俳優で映画の人物たちの説得力が強く立っていたように思います。

主演の有村架純さんは柔らかく温かく前科者たちを支える、包容感というのか、温かいオーラが滲み出すような在り方が素敵でした。阿川は内面には頑なさとか弱さとかを抱えていて、でも、だからこそ出せる柔らかさ温かさなんだろうなと有村さんの演技を見ながら思いました。

磯村さんは正統派のイケメン俳優だなと思ったんですけど、刑事役として「犯罪」と正面から対峙し、だからこそ(そして過去の事件のせいで)更生に懐疑的になる部分もある役柄として、あのヴィジュアルと立ち姿含めて納得感があるなぁと感じました。

マキタスポーツさんの役柄はベテランなふてぶてしい刑事役で、事件解決のためには無茶な捜査もするんですけど、反面、観客の代わりにこの世界の理不尽に対して憤ってくれる場面なんかは小気味良くて、すごくバランス良いなー!と感じました。

リリー・フランキーさんはかつては理不尽な暴力を振るっていたものの今は更生している人の役なんですけど、今現在の弱くなった雰囲気、過去の自分を恥じて(過去の自分を直視できない部分もあって)腰の低くなっている感じがリアリティがあってすごいと思いました。なんというか、おそらく過去は自分の思いどおりにならなければ暴力を振るっていたのであろうけど、今はカウンセリングを経て自分自身への過剰な自信や信頼を削ぎ落とされた感じのリアルさなんでしょうか。

そんなに出番はないんですけど、弁護士役の木村多江さんも良かったです!すごくクールだし、自分にも他人にも厳しそうだなって雰囲気なんですけど、同時に職業倫理や自らの使命感への自負もわずかな言動から伝わってきて場面がキュッと締まる感じがしました。でも、依頼人への愛情が溢れてるんだろうなと感じさせるすごく良い弁護士さんだと感じられるのです。

そして、謎の男を演ずる若葉竜也さんは素晴らしい俳優さんですね。「ボクらの時代」に出演した時、剛くんが話してみたくて呼んだというようなことを言っていましたが、今回の映画を見て納得しました。物語冒頭は、若いのに白髪で常に独り言をブツブツ言う危ない人で、まあ、そういう危ない役もありきたりかなと思っていたんですけど、工藤誠との関わりの中で工藤にすがりつく時の目とか声とか、壊れてるけどとても人間的でもある感じとか、すごい!となりました。物語のキーとなる人物の危うさと悲しさをみごとに体現されていました。

 

そして、森田剛くんなのですが、以前も感じましたが、スクリーンの中の森田剛は私が知っている森田剛くんではないなと感じました。撮影時はまだV6でアイドル兼業だったはずですが、まったくそんな感じはしませんでした。少し悪い表現かもしれませんが、ちょっとみすぼらしい前科者のおじさんにしか見えなかったです。ナイーブで弱い内面と不幸な過去を背負っている男にしか見えませんでした。

剛くん演じる工藤誠は無口だけれど、今は更生に真面目に向き合っていて、阿川とのやりとりには彼の繊細な優しさも感じ取れます。生い立ちがハードで、そのせいでグレる方向ではなく他者から虐められる方向に人生を歪められてしまい、そのせいで過去に殺人を犯してしまいました。優しいからこそ苛めを限界まで耐えてしまい、ナイーブで弱いからこそ傷つきすぎて我を忘れて相手を刺してしまったということなのかなと、剛くんの演技を見ながら感じました。

あと剛くんの声はスモーキーさと甘い優しい感じが同居している感じなので、それで内面のナイーブな役をするのがとても良いなあと思いました。

工藤は優しくて弱いからこそ、家族の絆を捨てることなんかできなくて、あの人物を守ろうとする姿の必死さに心を打たれました。

 

 

振り返ってみて

まとまりないですが、思ったことをつらつらと書き連ねてみました。ちょっと批判的に書いた部分もあったのですが、別に納得いかなかったというわけではなく、色々考えさせられる映画だからこそ考えてしまった部分ということです。

振り返ってみれば良い映画だな、見て良かったなと感じる映画でした。